たびたび起こしてしまう仕事中の物忘れは、ADHDの社会人にとって深刻な問題です。
今回は、多くの人が失敗や自己評価の低下につながるこの課題向けに、僕自身がコンサル業務で作業漏れを減らすことに成功している、メモを活用した物忘れの対策について紹介します。
ADHDの物忘れの対策をするうえで、「今やっていることはすぐ忘れてしまう」と言う事実を常に認識することが大切です。その前提で、頭から物事が抜けてもすぐに思い出せる仕組みづくりや、忘れてしまったことが悪い結果にならない対策を実践しましょう。
デスクワーク向けの内容になりますが、デスクワークをされていない方にとっても参考になる要素が散りばめられているので、ぜひ試行錯誤しながら実践してみてください!
みんなの苦労話:ADHDの社会人の永遠の課題
まず、物忘れで困っている皆さん、安心してください。
物忘れはADHDの特徴の一つです。あなた自身に能力がないとか、やる気がないとかといった理由で仕事中に物忘れを起こしているわけではありません。
僕が以前、大学の卒論でADHDに関する研究をしていた頃に実施したインタビューでは、物忘れについてはうまく改善できず、かつ改善方法や解決の実感が湧きづらいものだという話を聞きました。
不可抗力で、あらゆるものを忘れてしまう。それで失敗を繰り返すが、そのときに感じた焦りや叱られて落ち込む気持ちすら、再度の失敗まで思い出せない。周りからは失敗したのに飄々としているから、気を付ける気がないと思われているみたい。
作業が漏れてしまうことがたびたびあり、繰り返している。注意されても、その時に指摘されたことや周囲からの反応なども少ししたら思い出せなくなっているので、なかなか自分自身の反省につながらない。もちろん改善したいと思っているけれども…。
ちなみに僕自身が社会人になりたての頃は、10個の作業を振られたら2、3個の作業が漏れてしまっても、それが当たり前で、誰でもやってしまう仕方がないことだと勝手に思っていました。
上司から指摘され、振られた仕事は100%こなさなければならないという社会人のルールを叩き込まれた時には衝撃を受けたのを今でも覚えています(笑)。
もちろん叩き込まれたところで、作業漏れがすぐに減ることはあまりありませんでした。
何故ADHDは物忘れが多いのか?
物忘れと一言で言っても、これは健常者でも発生する可能性のある現象であり、そのため周囲から理解されないことが多いです。
そのため、物忘れが多いことはADHDを単なる言い訳として使っていると思われてしまうこともあるでしょう。
しかし、健常者とADHDの人の性質には明確に違いがあります。
脳の機能が原因
ADHDの人が起こしてしまう物忘れは、以下のようなADHDの脳の特性が原因です。実際に理解すると、あなた自身も身に覚えがあると思えるのではないでしょうか。
- ADHDの人は脳のワーキングメモリーの機能が弱く、考えたことを一時的に頭にとどめたまま他の作業をすることが困難である。そのため、いくつかの作業を同時に進めることが苦手。
- 衝動性が働き、突発的に別のことに取り組んでしまうため、直前までの物事を忘れてしまう。不意に頭にやりたいことが浮かんでしまうと、手を付けていた作業を放り出してしまう。
忘れることが前提のほうが楽!
ADHDの人は健常者と比べて、物事を忘れてしまう要因の影響大きく、皆さんもこれらの要因は自分でコントロールすることが難しいことはよく理解されていると思います。
そのため、物忘れをしてしまうことについては「自分はそういう人間なんだ」と思ってしまうのがいっそのこと楽かもしれません。
その代わりに、忘れてしまうことを前提に、忘れたことを思い出しやすくする対策を実践してみてはいかがでしょうか?
改善のアイデア:まずはメモを使いこなそう
言われたことなどをメモするのは社会人になってはじめに指導されることだと思いますが、ADHDにとっては特に重要な作業です。
ADHDの人は見聞きしたことなどを頭に留めておくことが難しいですが、取っ掛かりがあれば思い出すことができます。その取っ掛かりを、メモを使って意図的に作ることが可能です。
メモの取り方
やり方はとてもシンプルで、以下に紹介する作業を日々こなすだけでOKです。「できそう」と思ったら、まずは難しく考えず仕事で実践してみましょう!
■必要なもの
紙(またはノート)とペン
■手順
①業務の傍らでいつも目に入る場所にメモ(ノート、裏紙でもなんでもOK)を用意
②メモに、現時点で把握している自分の作業をすべて箇条書きで書き出す
③実際にメモとして書いた作業に取り掛かり、終わったものは取り消し線を引いて消す
④上司・お客さんから依頼があった作業、思い出した作業を随時追加して③を実施する
単純にやるべきことを書き上げ、終わったものから取り消し線を引くするだけの作業になります。
特殊なことをしていない分、簡単に実行に移すことができると思います。
僕は業務がデスクワークなので、PCの隣にA4用紙の裏紙をまとめたバインダーを置いて、やることの書き出しと終わったら消す作業を繰り返しています。
これだけで、忘れてしまった作業を簡単に思い出せるようになり、作業漏れを減らすことができます。
メモ実践のポイント
重要なのは、目につきやすいところに、作業の備忘用メモを意識的に置いておくことです。
忘れたらメモに意識が向くよう癖づけていくことで、衝動性や多動で別のことに気が逸れ、それまでやってきた作業を忘れたままになってしまうのを防ぐことができます。
自分が行っていた作業を忘れた場合、作業リストを見ることで思い出そうとする時間の浪費や、そのまま別のことに取り組んでしまい、作業を見落とすリスクを大幅に減少させることができます。
普段から実践できるようになれば、どんなに仕事が積み重なっても思い出せるようになるので安心です。
油断は禁物!とにかく継続!
紹介したこの方法はとてもシンプルである分、落とし穴があります。実践するにあたって以下の2点に注意しましょう。
■自分向けではないと思ってすぐ諦めてしまう
僕は以前に「ADHDの人はメモを活用する」という医師の紹介記事を読んで実践してみましたが、作業忘れを減らせず、3、4回くらい挫折して効果の薄い実践の仕方を続けていました。
紹介したメモの活用方法はシンプルですが、慣れるまでに時間がかかります。せっかく挑戦したのに、失敗に気が付いて「こんな単純なこともできないのか…」と心が折れてしまう人もいるかもしれません。
メモを活用することですぐ作業忘れを減らせますが、完全になくすまでには早くても1か月以上かかると前もって思いながら実践するといいでしょう。
また、紹介したとおりに実践してもうまくいかない場合は、自分の仕事内容や環境に合わてやり方を調整してみましょう。
■物忘れを改善できたと思ってやめてしまう
メモを実践してうまくいった場合、始めてから1週間程度で大半の作業を忘れずにこなせるようになる人もいるでしょう。そんな時「自分が作業忘れを改善できた!」と油断しないように注意してください。
油断すると、メモを取るこの方法を忘れます。また、自分には不要だと思って作業のメモを取らなくなってしまうかもしれません。そうすると、また作業忘れが発生するようになってしまいます。
健常者と一緒の環境で生活をするうえで能力の差を埋めるため、視覚障害のある方は白杖、聴覚障害がある方は補聴器が必要です。同様に、ADHDの人にはメモが必要だと思っておくと、気を付けられるようになるかもしれません。
その他アイデア
紙に書きだしたタスクが見づらくなってしまう場合は、ツリー上にして、作業に紐づいているサブタスクを線でつないでいくと、作業がどこまで進んでるのかを整理することもできます。
作業に慣れてきたら、各作業の優先順位付けや、MicrosoftやGoogleの提供しているタスク管理ツールなどを使用して、紙でまとめづらい作業の整理をしていくといいでしょう。
別記事で、タスク管理ツールを組み合わせた作業方法についてもご紹介できればと思います。
まとめ
ADHDの人が物忘れによる失敗を減らすためには、メモの活用、リマインダーやカレンダーの利用、チェック工程の導入が効果的です。物忘れを前提にした対策を講じることで、自信を取り戻し、より効率的に業務を遂行することができます。物忘れに悩む人々は、これらのアイデアを実践して、明るい未来に向けて前進しましょう!
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